ジャズ名盤紹介 – 部屋とYシャツとECM

ジャズ名盤紹介

たまにはジャズピアノ以外の話でも・・

今回より寄稿させて頂くことにあいなりました、ギタリスト/コンポーザーの多田大幹と申します。記事を書くにあたり先方からは「ジャズであれば何でもいい!」と、まさにジャズな説明を受けておりますので、私の趣味嗜好を余すところなく綴っていけたらと思います。

ジャズ名盤紹介 – 部屋とYシャツとECM

記念すべき第1回は私めが敬愛してやまないレーベル、ECM Recordsについて僭越ながら語らせて頂きます。

ECMって何なのよ?

何はともあれ、まずはECMって何なのよ?という所から説明しなくてはなりませんね。
パリピな若い方々でしたらEDMはご存知でしょうか?これは全く関係ありません。

プログレマニアでしたらPFMはご存知でしょう。これも全く関係ありません。
ハードコアプロレス好きにはECW・・・もうやめときましょ。

時は1969年、ビートルズのアビーロードが巷を賑わし、レッド・ツェッペリンが燦然たるデビューを飾り、キング・クリムゾンが静かに狂気を孕ませ、冷めることを知らない若者の熱を飽和させたウッドストックフェスティバル。
そんなロックのランドマーク的な年にECMレーベルはひっそりとその産声をあげました。

設立者の名はマンフレート・アイヒャー。ドイツ生まれのいぶし銀です。
プロデューサーになる以前はベルリンフィルでコントラバスを、ミュンヘンにいた頃はジャズを演奏していたようです。
彼の独自の音楽的感性は一貫して透るような静謐さと、低い色温度ながらも有機的なサウンドデザインに根差しています。その美なる価値基準はアートワークにも表れています。

これは当時の主流であった煙るような雰囲気、エネルギッシュで熱量の高いジャズとは対極に位置していました。
今では一大レーベルとなったブルーノートの創立者もドイツ人ですが、何をひねくれさせたらこうなるんでしょう?不思議です。

マル・ウォルドロンのFree at lastを皮切りに静かに歴史を歩み始めたECMは続々と素晴らしい作品を輩出していきます。
キース・ジャレット、チック・コリア、ヤン・ガルバレク、ケニー・ホイーラー、エグベルト・ジスモンチ、パット・メセニー・・・錚錚たる面々が優れた音楽を残してきました。

百聞は一見に如かず。ド名盤を聴いてみましょうよ。

ジャズ名盤Chick Corea – Return to forever

さあさあ。このアートワークはジャズファンでなくとも目にしたことはあるのではないでしょうか。ユニクロでTシャツになってたし・・・。
時代的にはジャズとフュージョンの過渡期ですので、比較的アグレッシブなアプローチです。当時流行りのジャズロック、仏産チェンバーロックのような質感です。
静かに、徐々に熱を帯びていくような感じがたまりませんね。合法的にトランス出来ます。

トランスと言えばこのアルバム。

Steve Kuhn – Trance

何を隠そう私のECM初体験となった作品です。趣味いいでしょ。ね?
特筆すべきはやはり、他のジャズにはない異質な没入感。これに尽きます。
執拗に繰り返されるパターンは実に妖しく幽玄で、あかん世界に足を踏み入れてしまったような感覚に陥ります。喩えるなら…喩えられませんね。私の表現力の乏しさを恨みます。

こちらがアルバムの1曲目なんですが、ご興味を持たれた方は是非とも続きをCDやLPで聴いてもらいたいのです。
なぜなら続くM-2 Change of faceへの導入が筆舌に尽くせぬほど素晴らしいのです。

先の曲の妖しくも幽玄な世界観から一転、霧が晴れたかのようなローズの音!
これを体験したことのない人は人生の9割9分損してます。

この作品への愛はまた別の機会に置いておきまして・・・。

ジャズ名盤 Jan Garbarek & The Hilliard Ensemble – officium

ECMのベストセラー(!)がこちら。
サックスと男声合唱がコラボしてグレゴリオ聖歌を演奏したという、特撮ヒーローと徳川吉宗が共演するような異色っぷり。いずれもも実現してしまっているのが空恐ろしい。

ジャズを期待して聴くと拍子抜けしてしまう感は拭えませんが、ECMのサウンドが気に入った方なら満足出来るのではないでしょうか。
ECMのレーベルカラーとも言える残響の美。これが教会音楽の持つ天然のリバーブ感にバッチリ嵌っているのですから。
この作品は150万枚以上の大ヒットを記録したのですが、その背景にはリリースの前年にスペインで起こった「世界的グレゴリオ聖歌ブーム」の後押しによるものが大きいと考えられます。

2匹目のどじょうを狙って続々と各レコード会社がCDを発表する中、ECMは独自の切り口でグレゴリオ聖歌を捧げたわけです。
典礼が国語化されていく中、これがECMの言語だと言わんばかりの説得力。
しかし、意外と商売根性あるんだね。

最後はこちら。

ジャズ名盤紹介 Kenny Wheeler – Angel Song

(私の周りの)トランペッターはこぞって大好きなケニー・ホイーラーの’97年作品。
ドラムレスのカルテットを支えるのはデイヴ・ホランド。
その上にビル・フリゼール、リー・コニッツというふわっふわな耽美派を配して録音された至高の一品です。して、対する究極の一品は何でしょうか。最近の山岡と海原は仲がいいって本当でしょうか。

いやはや、こういったアコースティック且つシンプルな編成においてもはっきり感じられるECMカラー。
木訥ながらもプレイヤーの魅力を十分に引き出していると言えます。

ギタリストとしての聴き方をしますと、冒頭のフリゼール!
この素晴らしさはなんなのでしょう。採譜してみるとイヤに簡素なボイシングなのです。
墨が滲むかのようなフレーズの広がり方。この縫うような空間美は真似出来ません。

まとめ

どうでしたか?ECMの持つ魅力とその引力。お気に召していただけたでしょうか?
コンテンポラリージャズシーンにおける稀代のプロデューサー、マンフレート・アイヒャーとECMでした。世界は今のうちに彼のクローンを準備しておくべきです。

と、このような調子で気まぐれにECMとその周辺音楽を紹介していけたらと存じます。
この日本に一人でもECMファンが出来ますよう。

多田

続き

この記事を書いたのは・・

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多田大幹
1991年生まれ茨城県出身。
11歳の頃よりギターを、高校時代よりジャズを学び始める。
2010年、洗足学園音楽大学に入学。ギターを道下和彦氏、有田純弘氏に師事。作曲を香取良彦氏に師事。
2013年度特別選抜演奏者に認定、2014年優秀賞を得て同校を卒業。
同年亀吉レコードより1st EP「the Portrait of Lydian Gray(クリックでitunesページに)」を発表。
ECMを中心としたコンテンポラリージャズを中心にアルゼンチン音楽やシカゴ音響派など豊かなバックグラウンドから得た作編曲能力には定評がある。

でした。